シリーズ くらしと 憲法 ②

2017年3月22日

弁護士 杉 島 幸 生
(関西合同法律事務所)

憲法を、たたかいの武器に

日本国憲法にはいいことが書いてあるのかもしれないけれど、私たちの暮らしはちっとも良くならない。日本国憲法なんて私たちの生活には関係ない。そんなふうに思っている人もたくさんいるのではないでしょうか。確かに、私たちの日々の暮らしは、そんなふうに思うのも無理もない現実に囲まれています。しかし、本当に日本国憲法は私たちの生活には関係ないのでしょうか。
 例えば、今では信じられないことかもしれませんが、この日本でも、1960年代までは、女子の結婚を退職事由とする「結婚退職制」や、女子の定年年齢を男子より著しく低く定める「女子若年定年制」が大手をふってはびこっていました。そんなの男女平等に反している、憲法違反だ、と誰しもが思うことでしょう。しかし、当時はそれがあたりまえだったのです。そうした「現実」を変えたのは、当事者である女性たちが「それはおかしい」と裁判に立ち上がったからでし
た。そのとき、たたかいの武器となったのが、法の下の平等を定めた日本国憲法第14条(すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治、経済的又は社会的関係において差別されない)でした。彼女たちは、自分たちの思いが、日本国憲法に支えられていることに確信をもつことでたたかってこれたのです。男女定年差別はそもそも許されないという最高裁判決がでたのは、日本国憲法が施行されてから34年後の1981年のことでした。結婚退職制、女子若年定年制とのたたかいに決着をつけた女性たちはさらに日本国憲法を武器に男女賃金差別是正のたたかいに進みます。そして、1994年、女性であることのみを理由とする賃金差別を違法とする最高裁判決をかちとるまでになりました。日本国憲法施行から実に47年後のことです。日本国憲法を武器とした女性たちのたたかいは今も続いています。しかし、憲法がなければこうしたたたかいもなかったかもしれません。
やはり私たちの生活は日本国憲法に守られているのです。すばらしい憲法があるからといって、それだけで「現実」が変わるわけではありません。私たちの生活は、日本国憲法の理想とかけ離れた「現実」にあふれています。そうした現実を変えていくのは私たちのたたかいです。日本国憲法は、私たちのたたかいの武器なのです。日本国憲法12条は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と定めています。日本国憲法が掲げる理想を現実のものとするのは、私たちの不断の努力にほかなりません。