シリーズ くらしと 憲法 ④
2017年8月9日
弁護士 杉 島 幸 生
(関西合同法律事務所)
平和なくらしを脅かす
日本国憲法9条3項加憲論の危険な狙い
安倍首相は、憲法記念日に、9条改憲を打ち出しました。9条1項(戦争放棄)、2項(戦力の不保持)はそのままに、自衛隊を認める3項を加えようというのです。自衛隊は必要だけど明文改憲はいやだと考える人たちに、「自衛隊の存在を書き込むだけで、何も変わらないんだよ。だから改憲案に反対しないでね」と言いたいようです。しかし、これはとんでもない出鱈目です。9条2項が求めているのは「戦力の不保持」です。
時の総理がいくら自衛のためと言い張っても、それが「戦力」にあたれば憲法違反です。2項がある限り自衛隊はなにかしようとするたびに、いちいち「戦力」にあたらないことを説明しなければなりません。ところが3項加憲で、自衛隊が2項の例外となれば、そうした説明は不要です。2項は自衛隊の拡大を抑止する力を失います。しかも3項が認める自衛隊は、戦争法が定める集団的自衛権(つまり戦争)を行使できる自衛隊です。「何も変わらない」わけがありません。お隣の韓国の憲法も自衛戦争以外の戦争を禁止しています。ところが韓国は、集団的自衛権行使の名目でベトナム戦争に参戦し、多くのベトナム人民を殺害、多数の戦死者も出しました。3項加憲は、自衛隊が、殺し殺されるアメリカの戦争に参戦することを禁止するものではないのです。日本国憲法は戦争も、戦争のために人権を制約することも想定していません。しかし、いったん戦争の実施が許されれば、戦争を理由とする人権制約も認められます。戦争遂行のための軍法や軍法会議も復活するかもしれません。戦争できない国から、戦争できる国となることは、社会の在り方を大きく変えてしまいます。自民党改憲草案は、国防軍の設立を目指していました。それが本音です。しかしそれでは国民はついてきません。そこで出てきたのが、「3項加憲論」なのです。自衛隊は必要と考える人も、そうでない人も、戦争への道を拒否したいのなら、「何も変わらない」という言葉には、決して騙されないでください。いつまでも日本が平和であり続けるために。